↑この記事は上記の動画を文字に起こし、詳しく説明したものです。
前回までのあらすじ
2021年5月31日午前にエンセファリトゾーン症で倒れたごんたは自宅加療することになった。発作のために眠れない一夜を過ごしたが、翌日無事に安楽な姿勢を見つけることに成功。ここから怒涛の快進撃が始まる。
3日目に立てた目標・留守番をするために
無事に安楽な姿勢を見つけたので「体力を回復する」ことができるようになりました。
まず生活ができるようになるために、今できることを確認する必要がありました。寝たきり以上に手がかかっているごんたを置いて仕事には行けなかったため、1週間の休みをもらいました。その期間で「半日の留守番」ができることを目標に掲げました。半日の設定は、私が仕事の昼休みに一時帰宅することを念頭に置きました。
留守番ができるためには、
1、自分で牧草が食べられる
2、自分で水が飲める
3、自分で体位変換ができる
まずはこの3つが出来るようになれば留守番が可能だと考えました。
早期リハビリの必要性
私は脳神経外科病院に十数年勤めている理学療法士です。救急車の受け入れも行っている病院であり、且つ退院後の生活まで幅広く手掛けています(急性期〜生活期まで網羅)。私は幸運ながら、そこで全ての病期を経験しました。
現在、脳卒中になったとき、即日・翌日からリハビリを行うことが主流になっています。早期からリハビリを始めることで二次障害を防ぐためです。二次障害とは、一時的にでも寝たきりになることによって、関節が固まったり、筋肉が落ちたり、心肺機能が下がったりすることを言います。この二次障害を防ぐことができないと、全身状態が落ち着いてリハビリをやろうとした時に、関節が固まって動かない、筋力が落ちすぎて立ち上がれない、息がすぐ上がってしまう、などのマイナスの状態から開始することになります。結果的に回復が遅れる原因となり得るのです。それを出来るだけ防ぐために早期からのリハビリは必要であると考えられています。
ごんたは脳卒中ではありませんが、Ezという神経症状が出てしまう病気にかかりました。このEzは詳しくどのような病気なのかが分かっておらず、Ezの検査をしても保菌状況が分かるだけで、発症していなくても陽性が出ます。また、頭のCTやMRIなどの画像検査はやらないことが多く(設備がない、かなり高額)、「どこがやられているのか分からない」病気でもあります。少なからず、内耳からくるものなのか、脳からくるものなのかの判別ができればいいのですが…。治療としてはどちらも疑って叩く場合が多いように思います。リハビリも内耳由来のものと脳由来のものでは内容が変わってきます。
このようなことを前提として、私はリハビリをスタートさせる決心をしました。
リハビリをする前提条件
リハビリをすると決めてすぐにスタートする訳には行きません。とりあえず、食事、睡眠、排泄をしっかり行って、運動をしても大丈夫な体にしなくてはいけません。そして、何より今のごんたがどこまで行えるのかをチェックしていきます。
ごんたはまだ自分で体を動かすことができません。自分で体を動かすと眼振が起き、四肢がつっぱりました。普通のペレットは食べられず、ふやかしペレットにしました。手で一粒ずつ口に運びます。元気だった頃の飲水量を参考にして、水分も取らせようとしましたが、同じ量を摂取することは困難でした。飲みやすくするためにアクアライトを入れて、1mlのシリンジで何度も与えました。栄養は飼い主側が与えることによって十分に補充されているように見えました。
リハビリをスタートする前の段階では、ほとんど何も出来ませんでした。ただ、分かっていることは「口に運べば食べる」し、「姿勢が安定していれば眼振やつっぱりが起こらない」ということでした。
リハビリ開始
ごんたは足を床につけるとすぐに体がつっぱってしまいました。人間で言うと「プッシャー症候群」のようです。しかし、「人間」と「うさぎ」は異なる生き物ですので、基本的に同じように考えること自体が誤りかと思われます。ただ誤りだろうがなんだろうが、私には対人間用PTとしてのスキルがあります。対兎用PTは存在しないようですので、諦めて今ある知識と技術を最大限に応用するしかありません。ここは人間と同じように、どのような刺激で、どこからプッシャー症状が出て、どのように波及してしまうのかを念入りに観察・評価しました。また、ごんたは全身の筋緊張が高く、自身で関節を曲げることが難しいようでした。そのため、筋肉のマッサージを行い、関節を曲げる練習をしました。もちろん、動かす前には念入りにうさぎの関節と筋肉の関係性を本やネットで調べました。
私が他動的に関節をスムーズに動かせるようになってから(この時は荷重なし)、荷重しながら動かす練習にうつりました。自身の体重がかかると何度も重心位置がずれ、横に倒れていきそうになります。何度も何度も正しい運動を教えました。荷重させる位置、方向、スピード、全部手探りでしたが、人間であっても全員が違うように私自身の感覚を集中させて何度も練習しました。
朝、練習する前は全身を壁にもたれている状態でしたが、お昼頃には体は壁にもたれてはいるものの、頭を壁につけずに起こしていられるようになりました。少しではあるけれど、自分で体の向きを変えられるようになりました。つまり、褥瘡(床ズレ)の心配はなくなったのです。
まだ時折、つっぱる反応は見られましたが、その反応が出ることで跳び上がってしまうことはなくなりました。非常に落ち着いています。薬も効いているに違いありません。
夕方も同じ内容のリハビリを行いました。床に足裏をつけるとつっぱる反応が強く出てしまうので、硬い床ではなく柔らかいものの上から練習しました。やわらかい床で上手に関節を自重で曲げることができてから硬い床面で練習をしました。荷重を右や左にかけてみて、左右の反応の違いを見ました。まだ、後ろ足では支えられないので、ずっとお尻から私が支えながら練習しました。この練習をしているときに、「右側に麻痺があるのでは?」という疑問が出ました。また、体も四肢だけでなく体幹にもつっぱる反応が出ていて、脊柱の後弯(まるっこい背中)が消失していました。
うさぎのバランスは後ろの足趾でとっていると思われました。そのため、足趾の方にも荷重できるように練習しました。それまでは足裏全体でバランスをとれるようにしていましたが、健常なうさぎの写真を眺めていて気づいた点がいくつもありました。
縦抱っこが最も苦手であり、上下の運動で眼振が出てしまうので慣れる練習をしました。どこまでの傾斜が大丈夫で、どこからがダメなのか。スピードや付随する運動(運動連鎖)もよく観察しました。横抱っこする時もどのように体を預けるのかをよく観察しました。夕方のリハビリが終わってから、少し自分で動けるようになりましたが、上下の運動での眼振はまだ出ていました。
晩ごはんの時間もリハビリを行いました。キャリーにいる時に自分で頭を動かせるようになったので、牧草を食べる練習を開始しました。目の前にある牧草に少し首を伸ばす、少し首を傾げるなどの動作を加えながら食べられる範囲を確認しました。ふやかしペレットも手で一粒ずつあげていましたが、頭を動かせるようになったので、顔の前に皿ごと置いて自分で食べてもらいました。皿のなかのものを食べる時には頭が上下に動きますが、この程度なら眼振も出ないようになりました。
22時頃にまたリハビリを行いました。さきほどの食べる練習をやったせいか、全身の筋肉が硬直しているので、念入りにマッサージしました。体が側弯(横に曲がっている)していましたが、マッサージを行うとまっすぐになりました。
空いた時間に先輩うさぎさんの介護の仕方を調べました。そのなかにU字クッションでうさぎさんをはさんで姿勢を安定させる、というものがあったので試してみました。少し動けるようになっているごんたは、クッションから外れて倒れそうになりました。特に左側から名前を呼ぶと転びました。体の左右での差はやはりありそうです。果たしてそれが麻痺なのかはまだ分かりません。
リハビリは正しい動きの学習、もしくは自己の気づき、が重要だと私は思っています。ごんたへの自己の気づきを確かめる方法がない(言語的なコミュニケーションがとれないため)ため、正しい動きの学習を何度も反復させることに重きを置きました。U字クッションで、少しでも長い時間良い姿勢を保ちたかったのですが、今のごんたには合わないようでした。
まとめ
私は獣医師の指示を待つことなくリハビリを開始しました。ただ、発症直後というのは状態が不安定なので、悪化する可能性もあります。もし行う場合は、うさぎさんに合わせた運動というのが大事です。合わない運動をさせた場合、骨折などの怪我に繋がる場合もあります。また、昨日できたことが急にできない状態になると精神的にも不安定になります。現状を受け入れつつも、成功体験が積み上がるように綿密に計算して目標や計画を立てたほうが良いと思います。